糖尿病ってどんな病気?

糖尿病は、血液の中のブドウ糖(グルコース)の濃度(血糖値)が高い状態(高血糖状態)が続く病気です。放っておくと、さまざまな臓器に合併症が起こる危険性が高くなります。

私たちの食事の主食となる米やパンなどに多く含まれる糖質(炭水化物)は、小腸でブドウ糖に分解されて、血液の中に吸収されます。

この血液中の糖の値(血糖値)は、体の中の「インスリン」というホルモンの作用で、ほぼ一定の値に保たれています。この血糖を調節する仕組みがうまく働かなくなり、血糖値が高い状態(高血糖状態)が続くようになってしまうのが糖尿病です。

血糖値が高くても、最初のうちは、ほとんど症状を感じることはありません。しかし、血糖の高い状態が続くと、のどの渇き、疲労感、多尿・頻尿、体重減少などの症状が現れるようになり、次第に全身の血管や神経が傷ついて、全身のさまざまな臓器に影響が起こってきます。
逆に、糖尿病になっても、食事療法や運動療法、薬によって血糖をきちんとコントロールできれば、症状がなくなり、合併症を予防できるのです。

糖尿病の診断

糖尿病は、血糖値HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)の値を調べて、その結果から診断されます。

次の(1)~(4)のいずれかに当てはまる場合を「糖尿病型」といい、別の日に行った検査でも糖尿病型であることが再確認できれば「糖尿病」と診断されます。

(1) 空腹時に測定した血糖値(空腹時血糖値)が126mg/dL以上
(2) ブドウ糖を飲んだ2時間後に測定した血糖値(ブドウ糖負荷試験2時間値)が200mg/dL以上
(3) 食事の時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上
(4) HbA1cが6.5%以上

※同じ日に(1)~(3)のいずれかと(4)が確認された場合は、その検査だけで「糖尿病」と診断されます。
※血糖値が糖尿病型を示し((1)~(3))、よくみられる糖尿病の症状などがある場合にも「糖尿病」と診断されます。
※2回の検査の少なくともどちらか一方で血糖値の基準を満たしていることが必要で、HbA1cのみの反復検査では診断はできません。

血糖値が正常な「正常型」と「糖尿病型」との間には「境界型」と診断される方がいますが、これは糖尿病になりつつあるか、もうすでに糖尿病になっている可能性があります。それを確定するために、ブドウ糖負荷試験があります。

空腹時血糖値および75gOGTT(ブドウ糖負荷試験)による判定区分

注1) IFGは空腹時血糖値110~125mg/dLで、2時間値を測定した場合には140mg/dL未満の群を示す(WHO)。ただしADA(米国糖尿病学会)では空腹時血糖値100~125mg/dLとして、空腹時血糖値のみで判定している。
注2) 空腹時血糖値が100~109mg/dLは正常域ではあるが、「正常高値」とする。この集団は糖尿病への移行やOGTT(ブドウ糖負荷試験)時の耐糖能障害の程度からみて多様な集団であるため、OGTTを行うことが勧められる。
注3) IGTはWHOの糖尿病診断基準に取り入れられた分類で、空腹時血糖値126mg/dL未満、75gOGTT2時間値140~199mg/dLの群を示す。

日本糖尿病学会 編・著:「糖尿病治療ガイド2016-2017」p.23,文光堂,2016

糖尿病の種類

糖尿病は、大きく分けて次の2つのタイプに分けられます。

1型糖尿病

インスリンを作るすい臓のランゲルハンス島が働かず、インスリンが全く(またはごくわずかしか)作られなくなっているタイプの糖尿病です。原因ははっきり分かっていませんが、ウイルス感染などをきっかけに起こることもあります。

日本ではこのタイプの患者さんは少なく、全体の数%程度です。小児期に発病する方が多いという特徴がありますが、成人してからこのタイプの糖尿病が起こる方もいます。

2型糖尿病

すい臓から分泌されるインスリンの量が少なかったり、インスリンの働きが悪くなったりしている場合に起こる糖尿病で、日本の糖尿病患者さんの95%以上がこのタイプです。

2型糖尿病になる原因は、遺伝的に糖尿病になりやすい体質と、食べ過ぎや運動不足、肥満、喫煙、飲酒、ストレス、加齢などさまざまなことが関わっているといわれています。

中高年に多いタイプの糖尿病ですが、食生活の変化などにより、小中学生の間にも患者さんが増えていることが問題となっています。
この2つのタイプの糖尿病の他に、他の病気や特定の薬の影響で起こる糖尿病、妊娠をきっかけに起こる糖尿病(妊娠糖尿病)もあります。

1型糖尿病と2型糖尿病

糖尿病の合併症

血糖値が高い状態が続くと、さまざまな合併症が起こります。このうち糖尿病に特有な合併症として3大合併症といわれる「網膜症」「腎症」「神経障害」があり、また糖尿病と関係が深い合併症として動脈硬化によって起こる心筋梗塞、脳卒中などの病気があります。

これらの合併症は、糖尿病の治療がきちんとできていれば予防できることが分かっており、また、仮に合併症になっても早く発見し治療すれば進行を遅らせることができます。

網膜症

血糖値が高いことによって、目の網膜(もうまく:眼球の後ろにある光を感じる部分)に栄養を送っている細い血管の流れが悪くなったり詰まったりすることで、出血が起こったり、血管からしみ出たタンパク質や脂肪が網膜に沈着したりする病気です。進行すると、失明につながることもあります。初めのうちは症状がほとんどないため、気づかないうちに進んでいることがあります。糖尿病と診断された時、そしてその後も、必ず定期的に眼科で検診を受けることが大切です。

腎症

血糖値が高い状態が続くことで、血液中の老廃物を尿として体の外に出す働きを持つ腎臓の細い血管(糸球体)の流れが悪くなり、腎臓の機能が落ちてしまう病気です。症状を感じることはほとんどなく、初めのうちは尿にタンパクが時々出る程度ですが、そのまま放っておくと常にタンパク尿となり、やがて腎臓がほとんど働かなくなる腎不全となって人工透析が必要となります。

神経障害

血糖値が高い状態が続くことで、さまざまな神経線維に障害が起こる合併症です。痛みなどを伝える神経が障害されると手足の感覚がにぶくなったり、じんじん・ピリピリしたり、しびれたりします。痛みが出ることもあります。

臓器の働きを調節している自律神経が障害されると、胃のもたれや下痢、便秘、膀胱の異常(尿が出にくい・尿が残る感じなど)、勃起障害(ED)などが現れます。

動脈硬化による病気(心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患など)

糖尿病は、動脈硬化を進め、心筋梗塞、脳梗塞など動脈硬化によって起こる病気の危険性を高めます。高血圧、脂質異常症や肥満、喫煙など、動脈硬化を進める他の要因をあわせ持っている方は、とくに注意しなくてはなりません。
糖尿病がある場合には足病変にも注意しましょう。特に、糖尿病による神経障害のために手足の指先の感覚が鈍くなり、気づかないうちにやけどや怪我をしてしまうことや、さらにその傷に気づかないまま、患部が化膿し重い感染症を起こしたり、組織が死んで、その部分を切らなくてはならなくなる壊疽(えそ)になることです。気になる症状が現れたら、すぐに医師に報告するようにしましょう。

歯周病

歯周病も糖尿病の合併症のひとつです。糖尿病の人では糖尿病でない人と比べ、歯周病にかかる頻度が高く、進行も促進されます。歯周病を未治療のままにして重症化すると、血糖コントロールに悪い影響が出ます。

認知症、うつ病など

高齢の糖尿病患者さんが認知症を起こすリスクは糖尿病でない方と比べて2~4倍といわれています。認知症は血糖コントロールを悪化させます。また、不眠(寝つけない、夜中に目が覚めてその後眠れない、朝早く目が覚めるなど)は糖尿病の患者さんにしばしばみられます。不眠は血糖コントロールを悪くすることがあるため、不眠が続く時は主治医と相談しましょう。また、糖尿病の患者さんは、うつ状態になる頻度が高いことも分かっていますが、うつ状態になると糖尿病治療に対する意欲がなくなり、血糖コントロールにも悪い影響があります。ゆううつ感、それまで興味・関心があったことに興味がなくなった、気力がわかない、食欲がないなどの症状が2週間以上続くようであれば主治医と相談するようにしてください。

高血糖による合併症(急性合併症)

主に1型糖尿病の方で血糖値が非常に高くなった時に起こる合併症として糖尿病ケトアシドーシス(ケトン性昏睡)や、ケトン体があまり作られない高血糖高浸透圧症候群があります。ただちに治療が必要なため、ふだんから症状や対処方法などを医師とよく相談しておきましょう。

感染症(急性合併症)

糖尿病の治療がうまくいっていないと、肺炎、膀胱炎、皮膚炎、歯肉炎などの感染症が起こりやすくなります。またこうした感染症が起こると、急に血糖のコントロールが悪くなることがあります。風邪をひかない・悪化させない、トイレをがまんしない、きちんと歯磨きをするなど、ふだんから注意してください。また、発熱や排尿の時の痛み、皮膚や歯ぐきの腫れ、化膿などがみられた時は早めに受診してください。

糖尿病の治療

2型糖尿病には、食事や運動などの生活習慣が深く関係しているため、基本は食事療法と運動療法になります。食事療法と運動療法で血糖値が改善しない時や、血糖値が非常に高く、急いで下げる必要がある場合などに薬物療法が行われます。

1型糖尿病では、インスリンによる治療が最初から欠かせませんが、血糖値をより良くコントロールし、インスリンの量を減らしていくためにも、やはり食事療法、運動療法は基本の治療として続けていくことが大切です。

食事療法

食事からとるエネルギーが多すぎる(過食)と、それを処理するためのインスリンが足りなくなって血糖値が高くなります。食事療法では、それぞれの患者さんの体格や毎日の活動の量に応じた適切なエネルギーをとれることを目標として、食事の量や栄養バランスを考えます。

運動療法

運動療法は消費エネルギーを増やすことで、体内のエネルギーが余分になることを抑えて、肥満の解消にもつながります。

また運動療法により、筋肉や肝臓のインスリンに対する反応性が良くなり、体内のブドウ糖をスムーズに利用できるようになります。

心臓、腎臓、関節などに病気がある方など、運動が勧められないことがありますので、必ず主治医に相談し、指示に従って取り組むようにしましょう。

薬物療法

糖尿病の薬には、血糖降下薬(飲み薬と注射薬)とインスリン製剤(注射薬)があります。

血糖降下薬にはさまざまな種類があり、個々の患者さんの血糖値の状態、すい臓からのインスリンの分泌量、筋肉や肝臓のインスリンに対する反応性などを測定したり推定したりしながら選んでいきます。

2型糖尿病の患者さんの中でもインスリン分泌が少なくなり血糖降下薬では血糖のコントロールができなくなった方や、1型糖尿病の患者さん、妊娠している方、よりしっかりした血糖コントロールが必要となる(手術予定がある場合など)患者さんには、インスリンを定期的に注射するインスリン療法を行います。

SU薬

すい臓のランゲルハンス島の細胞に働いてインスリンの分泌量を増やす薬です。すい臓の機能が弱っていて、インスリン分泌が十分ではない患者さんに広く使われています。SU薬は、食事と関係なくインスリンの分泌を増やすため、規則正しい食生活と併せて服用しなければ、空腹時に低血糖を起こすことがあります。

速効型インスリン分泌促進薬

すい臓のランゲルハンス島の細胞に働いてインスリンの分泌量を増やす薬です。SU薬と比較して効き目が速く、食事の直前に服用すれば、インスリンがすぐに増えて血糖値が高くなるのを抑えるという効果があり、発病して間もない糖尿病患者さんにみられる食後の高血糖を治療するために使います。効く時間が短いので、指示通りに服用していれば低血糖は起こりにくい薬ですが、飲んですぐに食事をしないと低血糖が起こることがあります。

α-グルコシダーゼ阻害薬

腸でブドウ糖の吸収を遅らせることにより、食後の高血糖を抑える薬です。インスリン分泌に影響しないため、この薬だけ使っていれば低血糖を起こすことはほとんどありませんが、お腹が張る、ガスが増えるという副作用がみられることがあります。

ビグアナイド薬

肝臓や筋肉のインスリンに対する反応を良くする作用、肝臓が糖を作って血液中に送り出すことを抑える作用、消化管からの糖の吸収を抑える作用などのある薬です。主に肥満などによって筋肉や肝臓のインスリンに対する反応が悪くなった患者さんに使います。

インスリン分泌に影響を与えないため、低血糖が起こりにくい薬ですが、まれに重い副作用(乳酸アシドーシスなど)が起こることがあります。

インスリン抵抗性改善薬

肝臓や筋肉のインスリンに対する反応を良くして、血液中のドウ糖が肝臓や筋肉ブに取り込まれやすくする薬です。主に肥満などによって肝臓や筋肉のインスリンに対する反応が悪くなった患者さんに使います。低血糖は起こりにくい薬ですが、むくみなどの副作用があり、太りやすくなることにも注意が必要です。

DPP-4阻害薬

栄養素が消化管に入ると、小腸の粘膜から、すい臓からのインスリン分泌を促進するホルモン(インクレチン)が分泌されます。

DPP-4阻害薬は、このインクレチンを分解する酵素(DPP-4)の働きを抑えてインクレチンを増やすことで、インスリンの分泌量を増やします。

食後(栄養素が消化管に入った時)にのみインスリンの分泌を増やすため、食前と食後のいずれの時間帯でも服薬できます。低血糖は起こりにくい薬ですが、SU薬と併用すると重篤な低血糖が起こることがあり、とくに注意が必要です。

SGLT2阻害薬

腎臓の尿細管にあるSGLT2というたんぱく質には、原尿(尿の元)からブドウ糖を体内に再吸収する作用があります。SGLT2阻害薬はこのSGLT2の働きを抑えるため、体内に戻るブドウ糖の量を減らし、尿中へのブドウ糖排泄を促進します。

このように、SGLT2阻害薬は尿と一緒に体内の過剰なブドウ糖を排出することで、血糖を低下させる薬です。尿中に糖が排出されるとき、薬の服用前より多くの水分が尿として出ていくため、頻尿や脱水などには注意が必要です。

インスリン製剤(注射薬)

すい臓で作られるインスリンの量が十分でない場合に使用します。インスリンがほとんど作られない1型糖尿病では欠かすことのできない薬で、2型糖尿病でも、すい臓のインスリンを作る機能が衰えて、飲み薬では血糖値をコントロールできなくなった場合に使います。

GLP-1受容体作動薬

すい臓のβ細胞のGLP-1受容体に結合することで、インスリンを分泌させる注射薬です。1日1~2回自分で皮下注射します。胃の動きを抑える作用もあり、副作用として悪心・吐き気があります。この副作用を抑えるために、投与量をゆっくり増加させる(漸増法)ことが必要です。単独では低血糖は非常に起こりにくい薬剤ですが、SU薬と併用するときには低血糖に注意が必要です。